重要なネタバレはクリックしないと見れないように配慮しています。
しかし、あらすじやみどころはご紹介してるので、そういうのが苦手な方はご遠慮ください
- 連載開始が1970~2010年までを年代別にご紹介
- 年代ごとの掲載順序はは古い順から
- 読みやすさを優先して敬称略
とりあえず書き上げたものからアップしていきます。過去に処分してしまった作品などは、再購入してからあらためて追記していくつもりです。
「キングダム(2006)/ 原泰久」を削除しました
以下のボタンから年代別に移動できます。
1970年代(昭和45年~)おすすめマンガ
この時代はリアルタイムで読んでないのがほとんどですが、初めて触れた漫画の世界ということもあってか印象的なものばかり。
設定や背景は古くてもシンプルでわかりやすいストーリー、それに50年前とは思えないアイデアやセンスには驚きます。
それではいってみましょう。
キャプテン /ちばあきお(1972)
ジャンル | スポーツ、野球、少年漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 月刊少年ジャンプ |
単行本 | 全26巻(ジャンプ・コミックス) |
アニメ | TVシリーズ:1980年( 全26話 ) |
映画(実写) | 2007年 |
ごく普通の中学生が努力と根性で強豪校に食らいつく熱血野球漫画
【あらすじ】
下町の中学校「隅谷二中(すみやにちゅう)」野球部に入部希望でやってきた転校生「谷口タカオ」がユニフォームに着替えていると、練習中のナインの手が止まりタカオのもとへ集まってきた。
なぜならタカオの着ているユニフォームは全国屈指の野球の名門中学校「青葉学院」のユニフォームだったのだ。
「あの青葉学院の選手が入ってきた!?」と色めき立つ墨谷ナイン、しかし青葉学院では2軍の補欠だったなどとも言えないタカオは… というところからはじまる根性と努力の野球漫画。
《 作品について》
「ドカベン」や「巨人の星」のような一大ブームこそ起こさなかったが、深い読み応えのある今作は、アニメ化もされ根強いファンを獲得。
部員同士の関係や試合はこびなどが丁寧に描かれ、イチローや田中将大といった誰もが知っているプロ野球選手も「影響を受けた漫画」として挙げたことのある野球漫画の超名作。
ここが見どころ!
毎年入れ替わるキャプテンとそのチームにスポットをあてた独特の視点
ズバ抜けた才能に溢れるスーパースターがいるわけでもなけりゃ名将と呼ばれる監督もいない、平凡な中学生の野球部員たちが、時には常勝校の仲間入りを果たし時には油断して足元をすくわれたり、山あり谷ありな野球部の歴史を汗まみれになって刻んでいく。
キャプテンを支える(ときには足をひっぱる)チームメンバーの活躍もまた胸を熱くさせます。
また冗長になりやすく読みづらいスポーツ漫画も多い中、この作品は長期に渡る選手権などでも端折るところはちゃんと端折り、見せるシーンは一球一球しっかりと読ませるテクニックが見事なのでスムーズに読めます。
この曽根(そね)も好きでした。
飄々と落ち着いた一番バッターで、キャプテンからも厚い信頼がありましたね。
勉強熱心で堅実なキャプテン、単細胞だけど人情味あふれるキャプテン、選手時代から大きく成長したキャプテン…どのキャプテンの時代も最高だと思える素敵な作品です。
おれは直角 /小山ゆう(こやまゆう)(1973)
ジャンル | 熱血時代劇、コメディ、少年漫画 |
出版社 | 小学館 |
掲載誌 | 週刊少年サンデー |
単行本 | 全14巻(少年サンデーコミックス) |
アニメ | TVシリーズ:1991年(全36話) |
笑いあり涙あり…そして胸を熱くさせる幕末の熱血活劇
【あらすじ】
舞台は幕末の長州。
バカがつくほど愚直で一直線な石垣直角(いしがきちょっかく)は角を曲がるときも直角に曲がるほど曲がったことが大嫌い。粗忽者で学問こそ全然ダメだが、剣術の直感的なセンスでは誰にも負けない。
下級藩士の嫡男直角が上級藩士ばかりの名門校で、持ち前の剣術と正義感であらゆる問題に立ち向かいながら成長していく熱血痛快時代劇。
《 作品について 》
「あずみ」や「がんばれ元気」などで有名な小山ゆうのデビュー作。
幕末の長州という設定、それに不器用で一生懸命な下級藩士の息子が上級藩士と渡り合うなど、のちの坂本龍馬をモチーフとした作品を彷彿とさせる部分も多く小山ゆうの原点とも思える作品。
ここが見どころ!
不条理でうまくいかないことばかりで胸が苦しくなるけど、それを乗り越える直角のバイタリティーに感動
上級藩士の集まるエリート校の明倫館(めいりんかん)がゆえに、目の敵にするライバル校も多く学校外はもちろん学内でもいろんな諸問題が発生する。
その都度、窮地に立たされる直角だが、周囲の支えや期待を糧にいつも「直角なりの答え(ここすごく重要)」で解決する姿に胸を打たれます。
特に終盤のワガママに育った北条家の孫、北条照正(ほうじょうてるまさ)とのもどかしくて困難な関係性は、胸がかきむしられるこの物語の大きなクライマックス。
それにしても小山ゆうは「あたふたと届かない気持ちを表現しようとするもどかしさ」や「悪気は無いけどカラ周りしていることに気づかない哀しさ」といった、日常にありがちだけど表現が難しい状況を描く天才ですね。どのシーンも本当に描写が巧い。
「笑い」あり「涙」ありそして「感動」あり、いろんなドラマの要素が詰まったまさに活劇と呼ぶにふさわしいこの作品がデビュー作とは本当に驚きです。
釣りキチ三平 /矢口高雄(やぐちたかお)(1973)
ジャンル | 釣り、少年漫画 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 週刊少年マガジン |
単行本 | 全65巻(講談社コミックス) |
アニメ | TVシリーズ:1980年(全109話) |
映画(実写) | 2009年(監督:滝田洋二郎) |
釣りを知らなくても読み応えアリな心が温まるヒューマンドラマ
【あらすじ】
純朴で釣りが大好きな主人公「三平三平(みひらさんぺい)」は、両親がおらず、釣り竿職人の祖父である三平一平(みひらいっぺい)と2人で暮らしている。
そんな三平が、全国各地のあらゆる場所で釣りにチャレンジする物語。
そして、さすらいの釣り人鮎川魚紳(あゆかわぎょしん)との運命的な出会いにより、釣りはもちろん三平の人生においても良き兄代わりとして三平の力となり、さらに失踪したと思われた父親の情報も入り、物語は大きな広がりを見せていきます。
《 作品について 》
魚を釣りまくるのがメインストーリーとなってはいるけど、出遭った人たちとの触れ合いやライバル達との対決など、ヒューマンドラマとしても読みどころもたっぷり。
もちろんメインの釣りでは、大人でも釣れない地元の「主」と呼ばれる大物を釣り上げるピリピリした緊張感に溢れるシーンもあり、釣りに関心の無い人でも興奮すると思います。
ここが見どころ!
丁寧に描かれた全国の牧歌的な風景と人情あふれる人間模様
どんな大人もエネルギッシュで太陽のような三平に魅了され、みるみるうちに三平の釣りに巻き込まれてしまう。
そんな光景を眺めてはいつも「ふふ、そういう子なんですよ三平君は…」と誇らしげな兄のように目を細める(サングラスで見えないけど)魚紳さん。
この魚紳さんをはじめ、一平じいさんなど三平に関わる大人たちの情の深さ、それを裏付けるそれぞれのストーリーもこの物語の大切な主軸と言えるでしょう。
丁寧に書き込まれた日本全国の美しい景色で活躍する三平、繰り広げられる心優しい物語、そんな矢口高雄ならではの描写に元気づけられそして癒されます。
とりわけ専門的な釣りの知識がなくても読めるし、さらに読み切り編と何巻かにわたる長編シリーズとのバランスがとても良く、読み疲れることがないところもおすすめのポイント。
個人的には北海道の「イトウ編(17~20巻)」やハワイ(!)の「ブルーマーリン編(37~42巻)」が印象深くて好きです。
ブラックジャック /手塚治虫(てづかおさむ)(1973)
ジャンル | 医療、ヒューマンドラマ、少年漫画 |
出版社 | 秋田書店 |
掲載誌 | 週刊少年チャンピオン |
単行本 | 全25巻(少年チャンピオンコミックス) |
アニメ | TVシリーズ:2003年、2004年、2006年(全61話) |
映画(実写) | 1977年 |
ドラマ | 1981年(加山雄三)2000年(本木雅弘)2011年(岡田将生) |
あの手塚治虫が贈る寡黙でストイックな天才外科医が生み出す感動のショートストーリー
【あらすじ】
医師免許を持たず、ワケありの患者たちから法外な手術費をふんだくるモグリの外科医ブラックジャック。
しかし不可能を可能にするその「神業」で、あらゆる名医が見放した「命」を次々と救うのだが、毎回ひと筋縄にはいかない患者やそれにまつわる複雑な出来事が待ち受けている。
そこから繰り広げられるドラマチックなストーリーを描いた作品。
《 作品について 》
手塚治虫の中でも「火の鳥」と並び1・2を争う代表的な作品。
1話読み切りが主体だが、永遠のライバルDr.キリコとの死生観の対立など、永きにわたる深いテーマもある。
また、スターシステムにより多くの手塚キャラクターが登場するのもこの作品の大きな特徴。
ここが見どころ!
まるで短編映画のような深い読みごたえが1話に詰まっている完成されたショートストーリー
毎回、静かで落ち着いた雰囲気から始まり、気づけば物語はあれよあれよとうねりを見せ、さんざんハラハラして…ハッと気づけば穏やかなラストに着地している。
まるで海外の古いショートムービーの名作を見たような読後感に包まれるのがまさに手塚治虫の世界なんだと思います。
スムーズな流れを生むコマ割りの間とテンポ、そして短いストーリーにしっかりと張られた伏線を見事なタイミングで回収する起承転結の完成度の高さはこちらも「神業」です。
そしてやはり、孤高の天才外科医ブラックジャックの意志を貫くストイックな生き様にはいつも惚れ惚れしますね。
ホントに読めば読むほど心を掴まれることばかりです。
なぜ手塚治虫が「漫画の神様」と今でも呼ばれ続けているかは、作品を読むのがもっとも説得力がありますね。
硬派銀次郎 / 本宮ひろ志(もとみやひろし)(1976)
ジャンル | 熱血番長、少年漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
単行本 | 全9巻(ジャンプコミックス) |
男だったら誰もが心に響く正義の番長が大活躍
【あらすじ】
都内下町にある「天茶中学(てんちゃちゅうがく)」の番長、山崎銀次郎(やまざきぎんじろう)の物語。
天涯孤独の銀次郎は亡き兄の子供を新聞配達で育てながら長屋に暮らしており、番長といえど決して暴力的などではなく、小さい体格で弱きを助け強きをくじくまさに正義の人。
口数も少なく懸命に生きる銀次郎は、ご近所はもちろん学校中が「銀ちゃん」と慕う人気者だが、男女についてはすっかり疎くてんでダメ。
そんなある日、才色兼備で気立ても良い小沢高子(おざわたかこ)が転校してくることでそんな銀ちゃんにも変化が訪れる。
《 作品について 》
「サラリーマン金太郎」の原作などでおなじみ、番長マンガの第一人者本宮ひろ志が贈る初期の名作。
のちに銀次郎の成長編となる「山崎銀次郎」が描かれるなど、当時の銀次郎がいかに愛されていたかが分かる。
ここが見どころ!
男らしくストイックに活躍する銀次郎の痛快な生き様
毎回登場するいけ好かない卑劣漢、それを無言で静観するみんなの心優しき番長銀ちゃん、そんな銀ちゃんもいよいよ堪忍袋の緒が切れて最後にドカーーンとブッ飛ばすシーンは今読んでもスカッとジャパンなど目ではないくらいにスカっとします。
もちろん、ときには男気溢れたライバルも登場して銀次郎に惚れ込むシーンもあり、これがまた熱い。
浪曲に登場する火消しの頭など、腕っぷしも立って心意気もある頼もしい正義漢の物語は時代を問わず男の心を奮わせるというお手本のような作品。
銀次郎の男気に触れたら、おいそれと人を傷つけることなんて恥ずかしくて出来やしない。現代の少年たち…いやむしろ大人たちにもぜひ銀次郎の生きざまに触れて、心を奮わせてくれたらいいのになあと思います。
マカロニほうれん荘 / 鴨川つばめ(かもがわつばめ)(1977)
ジャンル | ギャグ、少年漫画 |
出版社 | 秋田書店 |
掲載誌 | 週刊少年チャンピオン |
単行本 | 全8巻(少年チャンピオンコミックス) |
今も語られるスラップスティックギャグ漫画の金字塔
【あらすじ】
都内の高校に入学した新高校一年生、沖田総司(おきたそうじ)は、勉強などそっちのけで奇行ばかりを繰り返し今も高校を留年し続けている金藤日曜(きんどうにちよう=きんどーさん)40歳、そして膝方歳三(ひざかたとしぞう=トシ)25歳のコンビと出会い、大きなショックを受けるのだが、まさかの下宿先「ほうれん荘」まで2人と同じ…という悲劇?を迎える。
そして下宿先の管理人の娘である姫野かおりや、高校ではいつもきんどーさんやトシにノせられてしまう後藤熊雄(ごとうくまお=クマ)など、魅力的なキャラクターとともに、時に学校の授業態度をめぐり、時には喫茶店での一幕、そして時にはセンチメンタルな恋物語など、ドタバタで非日常的な日常の世界が描かれていく。
《 作品について 》
パンクロックの名盤「勝手にしやがれ」のたった1枚でロック史に名を刻んだセックスピストルズのような、鴨川つばめがマンガ史に残した超がつく名作。
独特の世界観により非常にカリスマ性が高く、今もなお熱狂的なファンから色あせない支持を受けている模様。
ここが見どころ!
奇抜な発想とロックンロールのように軽快なテンポ
時代を感じさせないセンスとハイテンションなギャグの応酬は唯一無二。
ボクたちが小さい頃に意味のまったく分からないロックを「カッコいい!」と感じたように意味が分からなくてもリズムに乗せられワクワクとコマを読み進めることができます。
またストーリーとは関係なく、とつぜん2人が羽織袴や軍服姿になったり下半身が鶏になったりする奇抜で秀逸な「コスプレ」も見どころで、この作品のリズムに大きく作用しています。
さらに当時のパンクやハードロックといった音楽のテイストを、ギャグやスタイリッシュな表現にオマージュとして巧く取り込んだおしゃれな側面も持つ稀有な作品。
この「マカロニほうんれん荘」は絵画でいうピカソのゲルニカみたいな「マンガ史を語るうえで外す事のできない」重要な位置づけの漫画だと思います。
面白いと思ったり共感できなくてもいいので、とりあえずマンガに興味のある人は参考作品としてもぜひ目を通して欲しい作品ですね。
うる星やつら / 高橋留美子(たかはしるみこ)(1978)
ジャンル | ギャグ、恋愛コメディ、少年漫画 |
出版社 | 小学館 |
掲載誌 | 週刊少年サンデー |
単行本 | 全34巻(少年サンデーコミックス) |
アニメ | TVシリーズ:1981年(全218話)ほかOVA多数 |
オリジナリティに溢れたキャラと物語でひとつの時代を築いた超名作
【あらすじ】
ある日とつぜん、軽薄で女好きの高校生男子の主人公、諸星あたる(もろぼしあたる)のもとに鬼族の宇宙人ラムが押しかけ女房のようにやってきた。
それ以降、妖怪や地球外生物など様々なキャラクターが毎回登場し、あたるに受難の日々が訪れる。
…という設定でスタートしたが、あたるにどんどん耐性がついてしまい、異常事態でも飄々としているスタイルがまたその魅力として描かれるようになったドタバタ恋愛ギャグコメディ。
《 作品について 》
あらすじに「鬼族の宇宙人」と打ちながら「本当にこの説明が必要なのだろうか?」と疑問を感じるほど今さら解説するまでもない日本の漫画界を代表する高橋留美子の初期作品。
今もなおラムちゃんのコスプレがされたりなどその人気はもはや世代を越え、象徴化されたキャラクターは現在も愛され続けている。
ここが見どころ!
少し間の抜けたテンポと爆発的なテンションの両極でたたみかけるギャグの世界
異常な超常現象が起こっているのに何事もないように平然とする「素っ頓狂な演出」と、逆に心底どうでもいい状況の背景に波しぶきなどを使用する「パワー全開の過剰な演出」 といったコントラストの強さをギャグとして用いるのだけど、そのテンポと使い方、そこに使われる言葉や擬音のチョイスが本当~っにうまい。まさしく天才。
そしてたいてのトラブルに、登場人物それぞれの「個人的なしょーもない欲望」が分かりやすく渦巻きまくってるところも特筆すべき魅力です。
たくさんの個性的なキャラクターに溢れた「うる星やつら」ですが、その中でもボクは、あたるのクラスメートで地球外生物でもなけりゃ特殊能力のない名脇役「白井コースケ」の淡々とした悪態やポソっとつぶやく冷静な感想が大好きでした。
言わずもがなの名作ですが、あらためて見直してもキャラクターの魅力そしてシチュエーションの面白さは今読んでも秀逸で、時代を感じさせることのない斬新なアイデアがたくさん詰まってますね。
1・2の三四郎 / 小林まこと(こばやしまこと)(1978)
ジャンル | ギャグ、熱血スポーツ、格闘、少年漫画 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 週刊少年マガジン |
単行本 | 全30巻(マガジンKC) |
映画 | 1995年(主演:佐竹雅昭) |
ひと癖ふた癖あるヤツらが格闘の世界に殴り込むスポ根ギャグ?漫画
【あらすじ】
主人公の東三四郎(あずまさんしろう)は、その抜群の体力と運動神経で天竜学園のラグビー部に在籍していた。
しかしラフなプレーで部員にケガを負わせた責任として自主的に退部することとなる。三四郎はその後、持ち前の運動神経を活かすために柔道部に入ろうとしたが、入部した矢先にもともと一人しか居なかった部員兼部長が柔道部を辞めてしまい、三四郎がたった一人の柔道部員となる。
そこに
これまたたった一人のレスリング部の西上馬之助(にしがみうまのすけ)そしてたった一人の空手部の南小路虎吉(みなみこうじとらきち)という、 三四郎に負けずとも劣らないスポーツセンスの持ち主が集まり「格闘部」を設立し、まずは手始めにラグビー部との試合に挑戦するところから物語は始まる。
《 作品について 》
面白かわいい猫の漫画「What’s Micahel?」の作者、小林まことの出世作。
当時は確立された「学園もの」というジャンルがあったようで、 その中でもこの「 1・2の三四郎 」は秀逸なギャグとスポーツの描写で群を抜いて人気・知名度ともに高かった名作。
のちに「三四郎2」や三四郎たちをモチーフとした「格闘探偵団」などの続編が出版されるなど、その人気を物語っている。
ここが見どころ!
最強でカッコいい筋金入りの「へそ曲がり」な愛しき男たち
とかく三四郎とその仲間たちの素行が悪い。
照れ屋というかフザけ体質というかスケベというか、だれもかれもどんな場面でも本気を見せない。
でも、そこが男目線で見たらすごくカッコいいのだ。
仲間が大金星をあげても素直に激励しあえないし、厳しい練習を「なんでこんなバカバカしいことを…」「あーアホらし」と言いながら全てきっちりとこなしたり、圧倒的な強さを誇る強敵を見て「あんなのにどうやって勝てというんだね?」「いやー勝てそうにありませんなぁw」とヘラヘラして結局壮絶なトレーニングして勝ってしまうなど、とにかくそろいもそろって「素直じゃない」
そんな三四郎と仲間たちが、どんどんスケールの大きな舞台へとチャレンジしていく成長と、次々に登場する魅力的なライバルの苛烈な争いは最終巻まで目が離せません。
今でこそ少し大仰なギャグですが、当時はそのテンションが受けており魅力的なキャラクターがそのギャグにピタリとハマってました。
主人公の三四郎はもとより、今でいうオタクのような「岩清水健太郎(いわしみずけんたろう)」や本当はカッコいい名悪役の「桜五郎(さくらごろう)」など、脇役やライバルも含めたくさんの「名スター」生まれ、のちにスターシステムによる時代劇なども描かれており、そちらもまた読み応えのある名作となってます。
そういったキャラクターづくりが長く続いた理由でもあると思うし、小林まことが描く世界の魅力だとも思います。
コブラ / 寺沢武一(てらさわぶいち)(1978)
ジャンル | SF、少年漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
単行本 | 全18巻(ジャンプコミックス) |
映画(劇場アニメ) | 1982年 |
アニメ | 1982年(TVシリーズ)2008年~(OVA) |
とにかくすべてが「カッコいい」宇宙海賊の壮大な物語
【あらすじ】
左腕に軌道や威力を意のままに操れる「サイコガン」を仕込んだ一匹狼の宇宙海賊コブラが銀河を舞台に活躍する物語。
相棒のサイボーグ「アーマロイド・レディ」、そして毎回コブラの味方になる不思議な能力を秘めた異星人たちと共に巨大犯罪組織「ギルド」そしてギルドの幹部で宿敵でもある「クリスタル・ボーイ」に立ち向かう。
《 作品について 》
こちらも言わずと知れた、今なお日本の「キングオブSFコミック」として有名な超名作。
あまりに高いクオリティだったせいか当時のジャンプでは珍しくシリーズごとに不定期で連載されており、少年ジャンプでの連載終了後もCGを使うなどその作画品質はみるみる上がり、オールカラーの画集のような単行本も刊行されていました。
ここが見どころ!
広い宇宙に描かれた少年の想像力をはるかに上回るSFの世界とコブラの生き様
メープル超合金のカズレーザーなど、有名人のみならずコブラに憧れた少年は数知れず。
リアルスケールで販売されたサイコガンは、ボクの「大人になったら絶対買うリスト」の1位を長らく独占していたように思います。
そんなサイコガンをはじめ「磁力で壁を走れるローラースケート」や「音が視覚化され目に見えるものが音で表現される世界」「ひたすら強い兵器と融合する生命体」などなど、とても遥か昔のマンガとは思えない奇抜なアイデアに毎回ワクワクさせられます。
そして主人公コブラの魅力についてはもう説明不要ですね。
ルパン三世やジェームズボンドといった「洒落の効いた粋で不死身の伊達男」…と文字に著すと申し訳ないくらいに古臭い表現だけど、とにかくクールでスマー…これもだめですね。
なにしろめっちゃカッコいい主人公(←結局これ)が駆け巡る広い世界の英雄譚が面白くないわけはありません。毎回シビれる名シーンの連続ですよ。
1980年代(昭和55年~)おすすめマンガ
この時代はボクにとっては少年マンガ全盛期といったところでしょうか。
バブル期と呼ばれるこの時代はすべてに勢いがあり、ファッションはじめ流行などに敏感でないと時代に取り残されるような謎の空気がありました。
もちろんマンガにもそんな風潮が色濃く反映され「よりエンタテイメント性の高いマンガ」「オシャレなテイストのマンガ」が増えてきたように思います。
童夢 / 大友克洋(おおともかつひろ)(1980)
ジャンル | サスペンス |
出版社 | 双葉社 |
掲載誌 | アクションデラックス |
単行本 | 全1巻(アクションコミックス) |
驚きの作画とストーリーで漫画界を震撼させた名作
【あらすじ】
巨大な団地で続く変死事件。
自殺か殺人か?死因に共通点も無ければこれといった手掛かりもないまま、次々と出る被害者に警察の捜査もほぼ八方ふさがり。
そんなある日、団地にひとりの少女が引っ越してくる。
それをきっかけに、少しづつ見えてくる事件の真相…はたしてこの連続変死事件はいったい何だったのか?
《 作品について 》
大友克洋の代表作といえば?の問いで「AKIRA」と大きく意見を分けるこの「童夢」
これまでの漫画・劇画という概念からかけ離れた、リアルでシリアスなシナリオをまるでドキュメントフィルムのようなシーンで描くまさに新しい漫画の誕生…それがこの「童夢」でした。
そして何より作画が衝撃的で、画面の隅から隅までビッシリ驚くほど緻密に描き込んだ風景があるかと思えば、アート作品のように完成度の高いホワイトスペースを使った風景もあり、おそらく当時に衝撃を受けていない人は居なかったのではないでしょうか?
ここが見どころ!
すべてにおいて高い完成度で構築された大友克洋の世界
まるでサスペンスムービーのように日常的で意味深なシーン、そして何気なく交わされる言葉に含まれた伏線…それが何を示すのかは分からないけど確実に何かが起こることだけを確信させる「計算され尽くした演出による何気ない」状況が読み手の心理を激しく揺さぶります。
また、名作映画が始まったら瞬きすら許されないように、読み始めたら崩すことのできないテンポが生まれ、ちょっとしたひとコマすらおろそかにできなくなります。
漫画界に「大友以前・大友以降」という言葉ができるほど、センセーショナルな影響を与えたこの「童夢」、今回ぼくはあえてストーリーについて多く言及しませんでした。
この作品も好みを問わず、漫画に興味があって未読の方には必ず目を通してほしい作品です。ぜひいちど手に取ってみてください。
ストップ!! ひばりくん! / 江口寿史(えぐちひさし)(1981)
ジャンル | ギャグ、青春、ラブコメディ、少年漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
単行本 | 全3巻( ジャンプ・コミックス ) |
TVアニメ | 1983年(全35話) |
江口寿史が贈る「オトコの娘(おとこのこ)」が主人公のラブコメギャグ漫画
【あらすじ】
唯一の身内だった母の死をきっかけに、母の旧知である大空(おおぞら)家に身を寄せることになった高校生・坂本耕作(さかもとこうさく)、しかしその大空家のおじさんは関東でも有名なヤクザの大親分だった。
いっときは居候を断ろうとした耕作だったが、大空家には美しく(可愛く)優しい4姉妹がいるアットホームな環境だと分かり、思いとどまることになった…のだが…なんと耕作と同級生の3女「ひばり」が実は♂で、今でいう「オトコの娘(こ)」だった…!というところから始まる物語。
《 作品について 》
「未完の帝王」こと江口寿史の恐らく最もメジャーな代表作。
前作の野球ギャグ漫画「すすめ!パイレーツ」の「ギャグ」と後期の「ポップなテイスト」の流れを汲むスタートを切ったが、回を追うごとにクオリティが上がり、その結果イラストデザインのような扉絵も含め「ポップでおしゃれな少年漫画」の先駆的な作品となった。
ちなみにクオリティと比例するかのように休載の頻度も劇的に上がった。
ここが見どころ!
読んでるこっちも気づけば倒錯してしまいそうなひばりくんの魅力とテンポのいいギャグ
なんといっても確立されたキャラクター「ひばりくん」の魅力。
茶目っ気たっぷりな女の子らしさで耕作を翻弄したり、焼きもちを焼けばツンデレな意地っ張りだったり…と、時にしおらしく時に気風の良い女の子の魅力がビッシリ詰まっています。
当時としてはおそらく非常に珍しいコンセプトであったにも関わらず「耕作…分かるわぁ」と共感してしまうひばりくんの「可愛さ」と「カッコ良さ」を表現できたのは、やはり江口寿史ならではの演出だったんじゃないかと思います。
そして今も変わらない江口寿史のギャグセンスの高さは、これまた魅力たっぷりな脇役たちが証明してくれます。
末っ子のつぐみちゃんからは「可愛くしなさい」と頭に花を飾られ、次女のつばめさんからは「気持ち悪い」と怒られ、ひとり縁側で悩む政二さんがボクは大好きでした。
ひばりくんが男だとバレそうなくだりや、耕作の母と大空親分との青春など…エピソードも幅が広くて豊富、さすがに3巻で終わってしまったのは惜しいとしか言いようがありませんね。
「ポップでおしゃれ」な性質上、執筆当時の時代背景はやはり避けられませんが、それでも40年(←!)経った今もなお楽しめるこのセンスは間違いなく要チェックの名作だと思います。
風呂上りの夜空に / 小林じんこ(1984)
ジャンル | 恋愛、ラブコメディ |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 週刊ヤングマガジン |
単行本 | 全5巻( ヤンマガKCスペシャル ) |
青年漫画で連載された女性作家による異色のラブロマンス
【あらすじ】
中2の春、土手から転げ落ちる少女をかばい、自分のお尻に14針の傷を負った少年「松井辰吉(まついたつきち)」は、この春「某高(ぼうこう)」の新一年生として入学。
しかしなんと、新しいクラスですっかり美しくなった「土手で救ったあの少女」花室もえ(はなむろもえ)と再会する。
だが辰吉にとって、もえとの出会いはこれが2度目ではなかった。
最近行った近所の銭湯「花の湯」の番台に座っていた女性の前で、辰吉は全裸のまま腰を振ったりしたのだが、その「番台の女性 」 も実はもえだったと知る。
そんな王子様だか露出狂だか分からない数奇な出会いをした2人のちょっと不思議な恋愛日常譚。
《 作品について 》
こちらも根強いファンが多く、今でも熱い支持があります。
読者層は当時おそらくゴリゴリの青年層だったはずのヤングマガジンに、なぜか連載されていた女性作家によるほんわかしたラブコメ。
ストーリーはもえと辰吉の恋愛をベースとした学園ものだけど、毎回奇抜なテーマをファンタジックに描いた読み切り仕立て。
この「普通の少女漫画では見られない」切り口で描くのが作者「小林じんこ」の作風であり、当時のヤングマガジンで連載されてた大きな要因かと思います。
ここが見どころ!
異次元の回あり!鼻毛が気になる回あり!謎の獅子舞の回あり!テーマの幅広さはもはや異常!
小林じんこの頭の中には、常に色んなストーリーが同時進行してるんじゃないか?と思うほど1話1話の毛色が違うんです。
しかし、この作品は荒唐無稽か?というとそうではなく、いつもこの「風呂上りの夜空に」の世界では実際にそういうことが起こってるんだろうなぁ…と感じさせるような「リアル感を出す独特の表現」があります。
そんな不思議なリアリティがあるにも関わらず、そのムードはどこか甘酸っぱいロマンスだったりもするあたりはこれぞ小林じんこの世界。
ほんと、他に似たようなタイプが思いつかない不思議な作家さんだと思います。
ちょっと変わった青年向けのラブコメメルヘン(?)漫画、一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか?
寄生獣 /岩明均(いわあきひとし)(1988)
ジャンル | SF、青年漫画 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 月間アフタヌーン |
単行本 | 全10巻(アフタヌーンKC) |
アニメ | TVシリーズ:全24話(2014年) |
映画(実写) | 2014年 |
危険な謎の寄生生物と人間との共存を描いたSFコミックのヒット作
【あらすじ】
ある日、宇宙から小さなヘビに似た謎の生物が多数飛来した。
それは地球上の生物(主に人間)に気づかれないよう体内に侵入後、頭部に寄生して脳を支配し、やがて知能や言語を取得し宿主の同種族を捕食していく。
都内の高校2年生、泉新一(いずみしんいち)も同じように右手から頭部へ侵入されそうになったのだが、とっさの判断で脳への侵入は防ぐことができた。
しかしそのまま「右手」に寄生されてしまうことに…
寄生に成功した寄生生物たちは人間を装い、密かに人類を捕食していく。
一方、右手に寄生した生物を「ミギー」と呼び互いの共存を決めた新一は、寄生に成功した他の寄生生物からは危険視され、命を狙われることとなる。
《 作品について 》
高校3年まで漫画を読まずに育ったという変わり種の作家「岩明均」による大ヒット作。
今作から以降、歴史や民族的なテーマの作品に取り組むことになるのだが、この「寄生獣」も含めどれも哲学的で岩明均ならではの解釈と表現に溢れたオリジナリティーの高い名作ばかり。
寄生獣を体験された後はそちらもぜひチェックしてほしいです。
ここが見どころ!
謎の生物との「不思議な共生」そして物語の「結末」
寄生生物VS人類という構図の中で、主人公の新一だけは「共生」という状況のため「寄生生物から狙われる」そしてミギーは「宿主が死んだら自分も死んでしまうので新一を生かし続けないといけない」つまり「寄生された人間と寄生生物が協力しあう」ことになります。
ここがこの物語の大きなポイントじゃないでしょうか。
そして1つの体内で共生する2つの生命体は、お互いを「未知の生命体として観察しあいながら過ごす」ことが日常となります。
そんな中、ときおりミギーがつぶやく人間への「生物としてのシンプルな疑問や意見」にも深く考えさせらます。
寄生生物はもちろん、それを宿す新一も周囲に明らかにするわけにはいきません。
助け合うことを結託した新一とミギーは互いに知恵と体力を絞り、寄生生物からの攻撃や世間にバレないような工夫を試みます。そこもまた大きな見ごたえになっています。
奇抜な設定にも関わらず、話を無駄に拡げることなく最後までブレない岩明均のストーリーテリングもまた見事な名作「寄生獣」、これは必読です。
この「寄生獣」という作品、実は作中では寄生生物を「パラサイト」「寄生生物」とは呼んでましたが一度も「寄生獣」と呼んだことはありません。
しかしたった一度だけ「寄生獣」という言葉が使われる場面があります。
それは終盤のクライマックス、自衛隊に囲まれた広川が議場の演壇で言った言葉
「人間に寄生し生物全体のバランスを保つ役割を担う我々から比べれば、人間どもこそ地球を蝕む寄生虫!!…いや……『寄生獣』か!」
そうなんです、この「寄生獣」というタイトルは我々人間のことを指していたのですね。
さらに加え最後の強敵「後藤」に止めを刺した汚染物、この物語冒頭のセリフの一部「誰かがふと思った『生物(みんな)の未来を守らねば……』」
そしてラストには、あらゆる生命が地球で生まれそして何かに寄りそい生きる…といった趣旨のストーリーでまとめられます。
もしこの作品を読み終えたときは、今度はパラサイトVS人間ではなく、双方が同じ地球に生きる生命体として読み直すとまた違った印象になるのではないでしょうか?
1990年代(平成2年~)おすすめマンガ
ほぼ毎日、何かしらの週刊誌や雑誌を買い漁っていたのがこの頃。
いよいよ漫画ジャンルの枝分かれも進み、80年代からさらに進化した「繊細で深い感情の表現」や「場面や時間の独特な切り取り方」といった作家さんの個性が際立った作品が増えたように思います。
さくらの唄 / 安達哲(あだちてつ)(1990)
ジャンル | 青春、社会、青年 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 週刊ヤングマガジン |
単行本 | 全3巻(ヤンマガKCスペシャル) |
美しい思春期を舞台にした 淫猥で残酷なズシっとくる青春物語
【あらすじ】
両親が海外赴任のため、ヤンキー気質の出戻りの姉と二人暮らしの高校三年生「市ノ瀬利彦(いちのせとしひこ)」は、ねーちゃんにオナニーを見つかったりしながら絶望と幻想を繰り返す日々を送っていた。
そんなある日、2人の元に不動産業を営む親戚の叔父夫婦が転がり込んできた。
以来、叔父夫婦による異常な生活への干渉が始まる。
さらに干渉はエスカレートし、不動産でのし上がった叔父はその権力で利彦の「美大進学の夢」をも奪おうとする。
叔父に辟易としながらも向き合うことができず、利彦は身近な夢と理想にその身を逃避させていく。
《 作品について 》
「バカ姉弟」や「お天気お姉さん」などで有名な安達哲の作品。
今でも安達哲の名作と言えば「さくらの唄」という意見は多いと思うのですが、Wikipediaによると” 作者曰く「先のことは全く考えずメチャクチャに描いていて出来上がった作品」 ”とのこと。
だとしたら、それでよくこんな剥き出しなドラマの名作が描けたもんだなと思います。
ここが見どころ!
セリフの掛け合いやひとコマの表情にドラマが宿る生々しい安達哲の世界
美しい美術教師や同級生の言葉に人生の夢や愛を感じたかと思えば、欲にまみれた大人の言動に嫌悪と反発を覚え、何もできずにただ一喜一憂しているだけの自分自身に虚無を感じ続ける毎日。
この「さくらの唄」は、そんな自意識過剰で多感な高校生が送る人生の山と谷を舞台に色んな登場人物の「人間像」を描いています。
ストーリーの展開はとても切なくて無慈悲で、ドキッとさせられる登場人物のこぼれる言葉や表情が、あちこちで刺さります。
そう書くと陰惨なイメージもありますがしかし、これも人生のようにところどころでセンス抜群な間抜けで平和なやり取りの緩衝材も置いてあり、そこがまたこの作品に厚みが出ている大きなポイントです。
もともとこういう作風が安達哲の特徴ですが、その特徴の角が削れることなく凝縮されているのがこの「さくらの唄」なんじゃないかな?と思います。
「性」や「不条理」「大人になること」といった、思春期最大のテーマをまったく取り繕わないド直球で描いた少し重たい青春?ドラマの問題作。コレはおすすめですよ。
みどりのマキバオー / つの丸(つのまる)(1994)
ジャンル | 競馬、少年漫画、ドラマ、ギャグ漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
単行本 | 全16巻(ジャンプコミックス) |
アニメ | TVシリーズ:全61話 |
ギャグと感動を織り交ぜて描かれた白い珍獣が起こす奇跡
【あらすじ】
北海道の「みどり牧場」で産まれた期待の競走馬、しかし体は白毛で小さくずんぐりとして闘争心もない、まるで気の抜けたロバか犬のよう。
その見た目もあり不遇だった牧場を飛び出し森をさまよっていると、気の強い一匹の野ネズミ「チュウ兵衛」と出会う。そしてチュウ兵衛 から「うんこたれ蔵」という嬉しくない名前をつけてもらい親分子分の関係となった。
そんなチュウ兵衛親分のアドバイスで再び牧場に戻ったたれ蔵が、チュウ兵衛や仲間たちとともに競馬界に奇跡を巻き起こす。
《 作品について 》
コミカルタッチで動物をモチーフにした作品でお馴染み、つの丸の最も有名な代表作。
ブリッツはじめ馬の名前が初期UK&USパンクが好きな世代ならニヤっとするようなネーミングが多く、沸点を超えているのにカラ回りしない感動的な演出や、ラフなのに崩れない絵柄など、おそらく作者は何かと幅広いセンスに長けた作家さんなのだなというのが、この作品を読むと十分窺い知れます。
ここが見どころ!
どんどん成長していくマキバオーと立ちはだかるライバルそして大切な仲間との絆…これぞ少年漫画の王道
未読の方は、作画のタッチからは『笑い』の印象しか無いかもしれません。ちなみにボクがそうでした。
しかし、そんな予想以上に『友情』や『カッコよさ』それに『涙』といった漫画好きならたまらない要素がギュッと詰まった大人でも読めるど真ん中の少年漫画となってます。
むしろこういうギャグ漫画テイストだから真剣な場面や熱いシーンが引き立つのかもしれませんね。
物語が進むと登場するボクが一番好きな規格外の競走馬「ベアナックル」など、物語を大きく彩る名脇役も誕生するのですが、それもやはりこのギャグっぽい世界観だからこそ拡げられるんだと思います。
ラフな印象を受ける絵のタッチですが、描き込みや構図といいキャラクターデザインなど卓越したセンスだなと感心します。
ちなみにボクはこの作品、「これまでに出会った漫画ベスト10」の候補には必ず入れるくらい大好き。
ここ一番の舞台の大きさやコースの説明それに馬主との関係もサラッと分かるようになってるので、競馬の知識は一切不要。
このギャグとスポ根そして友情のドラマが見事に混ざり合った「みどりのマキバオー」おすすめです。
SLAM DUNK / 井上雄彦(いのうえたけひこ)(1994)
ジャンル | バスケットボール、スポーツ、少年漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
単行本 | 全31巻(ジャンプコミックス) |
アニメ | TVシリーズ:全101話 |
1つのボールを奪い合うカッコいい男たちのカッコいい姿をカッコ良く描いたカッコいい名作
【あらすじ】
「可愛いあの子はバスケットボールが好きだからオレも今日からバスケをやるぞ!」と、高身長だがまったくモテないヤンキー桜木花道(さくらぎはなみち)は、そんなテキトウかつ不純な動機でバスケットボール部に入部すると決めてしまった。
もちろんまったくズブの素人だった花道にとって、バスケはそんなに甘いもんじゃない。
しかし、もともと高身長なうえに桁外れなパワーと身体能力、そして動物的な勘と何より負けん気たっぷりの強いハートを武器に、いずれ素人とはとても思えないミラクルを起こすことに…
《 作品について 》
超がつくバスケの名作。
あまりの多くのファンを魅了していたため、連載終了当時は激しく惜しまれ、永きにわたりいつまでも続きを熱望されてました。
しかし時を経た今、むしろベストとも言えるタイミングで終えることのできた作品として名を残し、突然に思えた幕切れも非常に美しい名シーンとして今も挙げられています。
週刊少年ジャンプでここまで終わり方に成功した漫画も珍しいけど、野球やサッカーなどと比べると認知度が低めのスポーツにも関わらずこれほど一世を風靡したスポーツ漫画もまた珍しいですね。
ここが見どころ!
読み始めたら止まらない「永遠のような一瞬」が詰まった中盤以降の名シーンの数々
大きさも含めコマの運びによる瞬間的な演出が圧倒的に素晴らしいと思うんです、映画で言うならカメラワークと間(ま)の妙でしょうか。
桜木のライバル流川(るかわ)が高校規格外のプレーヤーであることを証明する一瞬
素人同然だったはずの桜木がトッププレーヤーと互角に渡り合う一瞬
苦労して「やった」と思ったとたんに「え?」と足元をすくわれる一瞬
本当に「シーン…」と時間が止まったような「一瞬」が、ページの中に刻まれてます。
そんなわずか「一瞬」にたくさんの登場人物たちのストーリーと思いが詰め込まれ、感動の波がブワッと襲ってきます。
その演出においてボクは井上雄彦が漫画界でダントツNo.1のセンスだと思っています。
特に中盤以降のドラマチックな展開はものすごく高い高揚感と緊張感ですよ。
これまでの壮絶な挫折と努力をバネに培った感覚(センス)、超絶プレーヤーたちが次から次へと繰り出す「研ぎ澄まされた瞬発力」の応酬がまあとにかくカッコいい。
バスケのルールもよく分からないのに、そして何度も読んでるのに、それでも先が気になってしまいつい次の巻をとりに行ってしまします。
そしてかならず読了後にはいつも思います。
「ほんとこの漫画最高だわ」
蒼天航路 /王欣太(きんぐごんた)(1994)
原作 | 李學仁(イ・ハギン) |
ジャンル | 歴史漫画、歴史フィクション、青年 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 週刊モーニング |
単行本 | 全36巻(モーニングKC) |
アニメ | TVシリーズ:全26話(マッドハウス製作) |
君主・武将・軍師たちの言葉に思想を感じることのできる新解釈の三国志
【あらすじ】
中国の後漢末期(西暦180年ごろ)腐敗した王朝により動乱を迎えた「漢」の時代。
宦官の祖父そして官僚の父を持つ主人公・曹操孟徳(そうそうもうとく)は、知己・判断・意匠・知略などあらゆる才に長け、天性のリーダーシップで仲間とともに政権を掴み取り戦国の世を正しい道へ導かんとする。
天才的な「時代の読み」で趨勢を計らい、したたかにそして狡猾に周囲を圧倒していく曹操の覇道がこれでもかとドラマチックに描かれた新解釈の三国志。
《 作品について 》
時代で言うならキングダムより4~500年後の「三国志」をベースとした作品。
日本でおなじみドラマ仕立ての「三国志演義」では曹操が野心で奸計ばかり謀る悪役のように描かれてますが、この「蒼天航路」は曹操を現代的解釈による人材登用に優れた指導者として描くことでまた違った三国志の楽しみ方ができます。
そういう意味では事前に「演義」にも触れておいたほうがより楽しめるのでは?と思います。
ここが見どころ!
すっかり定着した三国志の登場人物イメージを根こそぎ覆す王欣太に描かれた武将たち
人物をドラマチックな演出で情熱的に描くのが天才的に上手い王欣太。
今作でも三国志ではおなじみの登場人物を、美しい造形に新しいイメージをギュっと詰め込んでます。個人的には「強欲のスケールを遥か極めんとする豪快な董卓(とうたく)」
や、「直感とハッタリだけの博徒気質で激情型の劉備(りゅうび)」そして意外性はないのですが「デカい図体には男気と腕力しか詰まっていない張飛(ちょうひ)」にはシビれます。
もちろん他にも三国時代を駆け回った武将たち…いや軍師たちまでもが、王欣太による見事な味つけで、読む手が汗で滲むほどエネルギー溢れる人物像に仕上がっています。
ただこれまでの三国志は、拮抗した三国の知力・武力そして運命によって揺れ動くパワーバランスが魅力だと思うのですが、作者の王欣太に主人公への贔屓の引き倒しの過ぎるところがあるため、この作品では常に曹操が主導権を握っている印象が強いです。
なので敗北の美学が無い…というか曹操だけがいつも悠然と構える光景に少し興をそがれます。
しかし、これまでの劉備の生徒会長のような正義面にうんざりしていた方、また孫家に脚光が当たらないことに憤懣やるかたない思いを抱えていた方にはまちがいなく超おすすめ。
とくに曹操ラブの方にとっては曹操の奇人とも言える天才ぶりを思う存分に楽しめる作品となってます。
青い車(短編集) /よしもとよしとも(1996)
ジャンル | 青年 |
出版社 | イースト・プレス |
掲載誌 | コミックCUEなど |
単行本 | 全1巻( イースト・プレス ) |
映画(実写) | 2004年(出演:ARATA / 宮崎あおい etc.) |
常に斜に構えていた「あの頃」をスタイリッシュに描いたコンピレーションアルバムのような作品
【あらすじ】
レコード屋で働く青年スナオカリチオのもとに、ある日ひとりの女子高生が訪ねてきた。
彼女の名前は佐伯このみ(さえきこのみ)、リチオの元彼女の妹である。
リチオとこのみは青い車(だと思われる)に乗ってドライブに。
目的地に向かう車内の会話で、2人の間に流れる微妙な空気の理由がゆっくりと語られていく。
《 作品について 》
あまり漫画で取り上げないような情景のひとコマを切り取って、 独特のテイストで表現するという、当時少しマイナーだったスタイルがじわじわと脚光を浴び出した頃に、おそらく最も人気があったと思われる作家さんの短編集。
ここが見どころ!
あらゆる世代の男子に読んでもらいたいやり切れない青春の数々
「愚かな生き物などこの世にはいない、それぞれの生き方があるだけだよ」
「あの世に行ったら神様をブン殴ってやるんだ」
すべてに対して斜に構えた青臭くストイックな時期 。
ヤンキーやオタクでもなけりゃクラスの人気者でもないタイプの男子であれば、ほぼもれなくこのモゴモゴした病を患ったことがあるんじゃないでしょうか?
そんな照れ臭くももどかしい「あの頃」、そして言葉ではなかなか言い表すことのできなかった「あの感覚」をいろんなシチュエーションで感じさせてくれます。
シンプルでスマートな作画も読みやすく、ゆったり淡々とした流れに乗せられた青く甘い毒気は心地いいですね。
ちょっと久しぶりに「いろいろと考え」たり「いろいろと考えていた」ことを思い出すにはピッタリの作品だと思いますよ。
BAMBi /カネコアツシ(1998)
ジャンル | バイオレンス、ロードコミック、青年 |
出版社 | エンターブレイン |
掲載誌 | コミックビーム |
単行本 | 全6巻( ビームコミックス ) |
マグナムの引き金を迷わず引ける少女の旅を描くバイオレンスコミック
【あらすじ】
すぐ手が出て口が悪く、自分のことだけ考え、気に入らない者は躊躇なく銃で撃つ。
ピンク色の髪でピンク色のデザートイーグルを軽々と扱う少女「バンビ」は、ボーッとした小さな男の子を誘拐し「ジジィ達」の元へ送り届ける真っ最中。
そんな誘拐犯バンビに懸けられた懸賞金は5億円。
この「ワケあり」な5億目当てにバンビの元へ次から次へと忍び寄る刺客たちを易々と排除しては「なーんにも知らないし興味ない、バンビは(この子供を)さらって来て届けるだけ」と平然と言ってのける。そんなピュアで極悪?な誘拐犯少女を描いたロードムービーのような作品。
《 作品について 》
抜群にクールな作画でアメリカのクライムサスペンスやバイオレンスアクションを彷彿とさせる作品を描き続けていたカネコアツシがイッキに有名になったのがこの作品じゃないでしょうか。
近年では「SOIL」「デスコ」とサイキックミステリーの要素が強くなり大きく幅も広がってますが、この「BAMBI」は初期のカネコアツシのパンチとエッジの効いた痛快な部分が集約されているように思います。
ここが見どころ!
クールな絵柄で繰り広げられるセンス溢れる演出と展開
1話ごとの演出に見事な「趣向」が凝らされています。
時には脇役の視点で、時には2つの話が同時進行するなど意図的な演出でストーリーをカッコよく、そしてとてもリズミカルに進めています。
さらにただカッコいいだけでもありません。
ときおりポソっとこぼれるバンビの達観した死生観には、この物語の厚みを感じます。
またバンビはもちろん、クセの強い協力者?や刺客が次から次へと現れます。
「暗殺で精神のバランスを保つ教師」や「女であることしか売り物にできないアイドル志望の娼婦」など、設定のクセの強さとキャラクターデザインがまさにカネコアツシの真骨頂で、ここも非常に大きな見どころじゃないでしょうか。
とはいえこの作品のすごいところは、それでもバンビが主人公として確立しておりキャラクター負けすることなくひとつも色あせないところじゃないかとも思います。
ジジィたちから頼まれた誘拐とは?それを追う刺客たちに5億もの懸賞金を払って依頼する人物とは?目的は?またジジィたちとは?
終盤へ向かうにつれ物語は少しづつ全貌を見せてきます。
このあたりのタイミングや見せ方もまたじっくりとそして唐突に、本当に読む側の心を掴むのが上手だと思います。
ロックテイスト溢れるアーティスティックな作画と構図、良くできた小説のような伏線と回収されていくストーリー、名作映画のように工夫された演出と明言ともいえるセリフの数々。
タランティーノ映画なんかが好きな人なら迷いなくお勧めできる最高のバイオレンスアクション・コミックです。
デビューマン /吉本蜂矢(よしもとはちや)(1998)
ジャンル | ギャグ、青春、青年 |
出版社 | 少年画報社 |
掲載誌 | 月刊ヤングキング |
単行本 | 全2巻( ヤングキングコミックス ) |
いつの時代も男子高生はバカであれ!リズム感たっぷり青春ギャグ漫画
【あらすじ】
恋やSEXそして食べ物に血気盛んな3人の高校生、富里豊(とみさとゆたか=トビ)・旭末広(あさひすえひろ=アサヒ)・千代田アカネ(ちよだあかね=千代彦)は、親への反発や開放的なオナニーを求め、千代彦の姉名義のマンションの一室をシェアする。
男臭く不器用でいつも腹が減っているトビ、根がまじめでイケメンミュージシャンのアサヒ、まさにこれぞ元祖チャラ男の軽薄な千代彦、の3人が織りなすギャグ満載の青春群像劇。
《 作品について 》
バブル期以前の若者による熱い涙や爽やかさが売りだった「学園もの」や「青春もの」も、世紀末のルーズソックス全盛の時代に吉本蜂矢が描くとこうなっちゃうんだYOチェケラベイベーな作品。
おそらく2019年現在のアラフォー世代が読むとすごく面白かったりこっ恥ずかしかったりするのだと思います。
ここが見どころ!
ふんだんに飛び出すブッ飛んだギャグや下ネタ
なんといってもギャグセンス。
たたみかけるようなギャグはリズム感抜群でテンションMAX、それぞれのキャラクターに合ったブッ飛んだいじり方や描写もポップな絵柄と相まって可愛げたっぷりな青春パンクのようです。
ドタバタしたシーンも最高ですが、ときおり音が消えたようなブレイクのギャグも緩急があっていいですね。
基本下ネタというあたりも、とても男子ウケしそうでボクは大好きです。
あと特徴的だった「あの時代のあのノリ」を思い出す資料?としても非常にレベル高いです。
今読み返すと、そういや当時は女子も男子も肉食で、この肉食戦争で圧倒的な勢いを持った女子に、木っ端みじんに敗北した男子の破片が芽を吹いて草食男子が生えたんじゃないか…と思えるほど女子がしたたかでたくましい。
それくらい当時の男子はこんな「やり手」の女子を相手にしてたんかと思うと、同じ男子としてよくぞ頑張ったと褒めてあげたい。
そういう意味では女子が読むと痛快でスッキリする作品?なのかもしれませんね。
そんなクセの強い描写とリズミカルなギャグが抜群な、気軽に笑えるおすすめの作品。
ヒカルの碁 /小畑健(おばたけん)(1999)
原作 | ほったゆみ |
ジャンル | 囲碁、少年漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
単行本 | 全23巻(ジャンプコミックス) |
アニメ | 2001年(全75話) |
囲碁の知識無しでも充分に楽しめる少年の成長物語
【あらすじ】
ごく普通の小学6年生・進藤ヒカル(しんどうひかる)は、小遣い稼ぎに入った祖父宅の蔵の中で古い碁盤を見つける。
その時、成仏できず碁盤に宿った「平安時代の囲碁指南役」である藤原佐為(ふじわらのさい)の霊がヒカルに乗り移る。
「神の一手(かみのいって)」を見つけるまでは成仏できない佐為のために、まったくの素人ヒカルが代わりとなって囲碁を打つことになるのだが、次第にヒカルもまた囲碁の魅力に気づくことに…。
《 作品について 》
「デスノート」や「バクマン」でおなじみ小畑健の作画そしておばたゆみ原作による囲碁を題材とした作品。
非常に珍しい題材だが、完成度の高い魅力的な登場人物たちとストーリー展開で、のちにこの漫画を読んだ少年たちからプロの棋士が輩出されたという大ヒット作。
ここが見どころ!
囲碁の能力を開花させていくヒカルとカッコ良さ&可愛げが共存する佐為との不思議な師弟関係
数奇な出会いによって始まった二人の生活。
囲碁を打ちたがる古風な佐為と囲碁に興味が無いうえに面倒くさがりな現代っ子のヒカルが、ぶつかって揉めながら心を通じ合わせ?少しづつ囲碁の世界に足を踏み入れていきます。
そんな中、ヒカルもじょじょに囲碁の棋力を上げ、そして囲碁の魅力にも気づき始めていきます。ヒカルがステップアップしていくその過程がとても分かりやすく、ついついページをめくる手も加速すること間違いなし。
さらにやはり師匠である佐為の魅力。
普段はヒカルと子供みたいなやり取りをする無邪気な乙女ちゃんみたいなのに、ひとたび碁盤を前にすると目の色が変わり、毅然と…そして冷静に碁を打つ姿がめちゃめちゃカッコいい。
やがてどんどん囲碁の世界を広げていくヒカル、「神の一手」を探し求める佐為…そんな2人が歩む先に待ち受けるのは…?
物語としてのクオリティが高く状況描写が非常に巧いので囲碁のルールを知らなくても緊迫した対局を充分に感じることができます。
読み応えある濃密な内容を23巻というちょうどいい長さにまとめ、最終巻までテンションを保ったまま、まったく中だるみすることなくイッキに引っ張ってくれるこの「ヒカルの碁」はマジでおすすめですよ。
2000年代(平成12年~)おすすめマンガ
「ONE PIECE(ワンピース)」や「NARUTO(ナルト)」といったマスメディアを大きく動かすような超有名作品が波に乗り出したのがこの頃。
漫画の切り口もどんどん多岐にわたり、新たなチャレンジも続く中、漫画の原点を思い起こさせてくれる作品に多く出遭ったのがこの時期でした。
茄子(短編集) / 黒田硫黄 (くろだいおう)(2000)
ジャンル | 短編集、青年漫画 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | アフタヌーン |
単行本 | 全3巻(アフタヌーンKC) |
映画(アニメ) | 2003年(マッドハウス製作) |
ちょっと変わった味わい深い作品が満載の短編集
【あらすじ】
田舎で隠遁生活をしている読書と野良作業が好きな「センセイ」と呼ばれる中年・高間(たかま)の家にある日、ワケありっぽい学生くらいの年頃の男女が「泊めてくれ」とやってくるのだが…
そして四国に家庭があるにも関わらず、余所に女を作って今日も日本を飛び回るお気楽な渡り鳥の長距離トラック運転手・早川(はやかわ)が、ある日フィリピンから来たアンジェラという若い女を青森まで乗せて行くことになるのだが…
などと「のだが…」と書いてみたものの、どの話も想像の斜め上に行ったり下に行ったり、とにかく予想がつかない展開をちょっと粗いタッチで描く不思議な作家、黒田硫黄の短編集。
《 作品について 》
ドラマになった「セクシーボイスアンドロボ」や最近では「niko and」のイメージビデオにも起用され話題になった割に知名度が低い(ような気がする)黒田硫黄による短編集。
「茄子」というタイトルどおり、すべての話のどこかに必ず茄子が登場する。
ここが見どころ!
黒田硫黄ならではのオリジナリティ高い世界観
自分の一番好きなマンガ家さんを決めるなんてのはどだい無理な話。
でもやはりどうしても決めてみたくなるのがマンガ好きの性分というもので、そんなときは必ずこの黒田硫黄が候補に挙がります。
SFや恋愛はもちろん犯罪ミステリーや幕末モノなどあらゆるテーマの漫画を描ける作家さんで、どの話も読み応えあり。
テーマの着眼点や展開のオリジナリティ、それに登場人物の言動などが、まるで欧米の文学小説をマンガ化したような…いや欧米の文学小説とかモチロン読んだことはないんですけど、海外の映画なんかを観て「この発想は日本人からは生まれないよなあ」なんて思うアレに近いように思います。
かと言って欧米っぽい作風というワケでもありません、ここが黒田硫黄のオンリーワンなテイストなんじゃないでしょうか。
ボクは特に「会話」が好きで、最近よく使われているハイコンテクストと言いますか、シンプルな言葉だけど行間で語り合うようなやりとりが抜群だと思います、
今回ご紹介するこの「茄子」
アニメ化されたカッコいいロードレーサーの話「アンダルシアの夏」をはじめ、田舎暮らしをするインテリおじさんの日常、江戸時代の隠密任務、未来の地熱プラントで起こった事件、などなど…幅広いテーマ・題材が黒田硫黄テイストで描かれています。
そして短編集とはなっていますが、それぞれの登場人物が違う話で出会うことがあったり、断続的に続くストーリーもあったり、1話ごとに重なったり離れたりする距離感が絶妙。
そんな「多側面な魅力」を持つ黒田硫黄のいいところが集まってるのはこの作品なのかな?と思ったのですがどうでしょうか。
そんな短編集「茄子」こちらもまたチャレンジの価値アリな名作ですよ。
そして黒田硫黄についてはどれをおすすめしたらいいのかすごく迷ったのですが、もう1つおすすめできるならやはり「セクシーボイスアンドロボ」。
鋭いプロファイリングと速い頭の回転…振舞いは大人びているけどそこがナチュラルな女子中学生・林二湖(はやしにこ=ニコ)とドン臭くて憎めないザ・俗物な相棒?子分?の「ロボ」そして登場する脇役たちがもうちゃめちゃ粋でカッコいい。
いいシーンですね。
ネットの三文記事などに「おじさんがやってはいけないこと」として「昔話」なんて書かれるこのご時世に、なんとも素敵なセリフじゃありませんか。
もし先ほどおすすめした「茄子」を読んで興味を持たれたら、この「セクシーボイスアンドロボ」も間違いなくマストです。
クレイモア / 八木教広 (やぎのりひろ)(2002)
ジャンル | ダークファンタジー、戦闘 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 月間少年ジャンプ→ジャンプスクエア |
単行本 | 全27巻(ジャンプ・コミックス) |
アニメ | TVシリーズ:2007年(マッドハウス製作) |
妖魔と戦う謎の女剣士たちを描いた戦闘ファンタジー
【あらすじ】
人の臓腑を食す「妖魔」がはびこる中世西欧風の世界が舞台。
その妖魔たちを殲滅するため、自らの体内に妖魔を取り込んだ「半妖半人」の女剣士たち、身の丈ほどの大きな大剣クレイモアで叩き斬ることから人々は彼女らを「クレイモア」と呼ぶ。
物語の主人公はそんなクレイモアの一人「クレア」
クレアが妖魔を退治した街で出会った少年「ラキ」と旅を共にすることになったのをきっかけに、新たな強大な敵と出会い、さらに他のクレイモアたちと共に戦うことで、妖魔とは?そしてクレイモアとは?といった明かされることのなかった真相に少しづつ触れていくことになる。
《 作品について 》
心は天使のように優しいのに、異様に顔が怖いだけでどんどん誤解を招く学園ギャグ漫画「エンジェル伝説」の 八木教広(やぎのりひろ)によるファンタジー作品。
クレイモアたちの「ナンバー」と呼ばれる序列、それぞれの特技や一人ひとりが抱える過去など物語に深みが出るギミックをしっかり盛り込んでいる。
このあたりは最初はギャグ要素の強かった「エンジェル伝説」も後半はじっくり読ませる作風になるなど、もともと八木教広がシリアス路線のテクニックに長けていたことが十分窺える。
ここが見どころ!
壮大なストーリーとともに紡がれるクレイモアたちの熱く強い「信念」と「仲間意識」
女剣士たちの「成長」、次々と登場する「強敵」、少しづつ解き明かされていく「妖魔とクレイモアの謎」そして知られざる「過去」、魅力的で頼もしい仲間たちとの「出会いと別れ」…と、これでもかとばかりに男子の喜びそうなジャンプ的要素がギッシリ詰まっています。
高い精度で練り込まれたどの要素も今作には欠かせない魅力なのですが、ボクが特に推したいのは冷静で心が動かないはずのクレイモアたちを熱く突き動かす「仲間との共闘」の部分です。
表に出さないけど堅くブレない正義感に溢れる強く頼もしい女性剣士たち…しかし中には正義とは縁遠いクレイモアや捻じ曲がった信念を持つクレイモアも存在します。
さらに深い業の淵へと落ちてしまうクレイモアもいます。でもそんなクレイモアたちこそが胸に突き刺さる名場面を生むのです。
そしてどんどん壮大になっていくつじつまの合ったストーリー展開も申し分なく、長編としてはちょうどいい27巻という絶妙な長さでキレイに完結しています。
先急ぐことも無けりゃもったいぶることもなく、いったん読み始めるとペースに乗ってグイグイ引っ張る力に溢れた作品。
気づけば10巻くらいはアッと言う間に読み終えてしまう牽引力はまさに八木教広のストーリーテリングの成せる技。
謎多き半妖半人の女剣士クレイモアたちの物語、ボリュームたっぷりのストーリーは読み応えバツグンですよ。
竹易てあし漫画全集 「おひっこし」 / 沙村広明 (さむらひろあき)(2002)
ジャンル | 短編集、青春、ラブコメ、青年漫画 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 月間アフタヌーン |
単行本 | 全1巻( アフタヌーンKC ) |
「無限の住人」の作者が描くある意味悲劇的なクセの強い青春喜劇短編集
【あらすじ】
大学の軽音サークルで1コ上の赤木真由(あかぎまゆ)に片思いしている遠野禎(とおのさち=サチまたはトーノ)は、ある日サークルの飲み会で赤木先輩をデートに誘う決意をする。
ちなみにサチと同じサークル内の友人・木戸草介(きどそうすけ)は、サチの幼馴染みでサークル内人気No.1バンドのボーカル小春川玲子(こはるかわれいこ)と付き合ってはいるのだが、いまひとつスムーズに進展しておらず、その理由を分かっている赤木先輩は…という青春恋愛?群像劇。
《 作品について 》
映画にもなったヒット作「無限の住人」の作者、沙村広明が「竹易てあし」名義で描いた、当時はちょっと意外だった路線の作品を収蔵。
基本「おひっこし」がメインとなり後半が「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」となってます。
面倒くさい人間を痛快に描いた最近の作品「波よ聞いてくれ」とテイストが近く、登場人物の鬱屈した内面を滑稽に吐露させたらまさに天下一品。
ちなみに「竹易てあし = Take it easy」というアナグラム。
ここが見どころ!
面倒くさいキャラクターとあらゆるコマに細々と詰め込まれた容赦なく分かりにくい小ネタ
沙村広明の作品にちょこちょこ登場する「ぐるぐると何周も考えた結果、辿り着いたルーレットの位置がいつも微妙」なちょっと不器用で思わず手を差し伸べたくなるようなキャラクターが主人公。
作者がこういうタイプに目が無いのか、ひょっとすると作者自身がこういうタイプなのかな?とか思ったりするほど。
気の強い幼馴染から辛辣に当たられてはてなマークを浮かべたり、マウントをとられている相手の一言一句を深読み(もちろん肝心なところは気づかない)して振り回されるところなど他人事じゃなくて目が離せない。
「おひっこし」を読んだ女子には、ぜひ世の男子の大半はこんな「考えすぎるポンコツ」だと思って頂きたいです。
またメインストーリーの「沙村風ラブコメ」も十分面白いのですが、ちょこちょこ挟まれている小ネタや脱線がこれまた沙村風で実に面白いですね。
ロックで言うならボーカルもカッコいいんだけどバッキングがいいんだよなという軽音だけにな感じ。
何かとディテールの細かいフェティッシュな表現や時事ネタが多く、キャバ嬢が全員モーニング娘。など大胆なチョイスに噴き出す場面もある反面、スラッシュメタルや芸術表現などネタ元が分かりにくい小ネタも盛り込まれています。
読んでて「…分かんないんだけど」ってなるかもしれませんが、この作者がニヤニヤと含み笑いしながら描いてそうなところが沙村広明の面白いところでもありリアルタイムでもよく分からないネタの部分なので、あまり深読みせず「恐らくきっと良く分からない古い何かなんだろうな」と割り切りましょう。
それでもいちおうネットでググったりしてどうにか辿り着くと、生きるうえで必要のない楽しい知識がたくさん増えるかもしれません。
あまり触れてませんが「涙のランチョン日記」も怒涛の展開がすごく面白いですよ。
よつばと! / あずまきよひこ(2003)
ジャンル | ホームドラマ、コメディ、青年 |
出版社 | メディアワークス |
掲載誌 | 月間コミック電撃大王 |
単行本 | 1~14巻(2019年現在連載中) |
何もないけど素敵な一日をゆっくりと見せる緩くコミカルな日常譚
【あらすじ】
平和なある日、平和なある町の平和そうな一軒家に、平和な2人が軽トラックに乗って引っ越してきた。
物語の主人公、30歳前後かと思われる「小岩井 葉介(こういわいようすけ=とーちゃん)」と4~5歳くらいの少女「小岩井よつば(=よつば)」である。
引っ越し先のお隣は、やさしいご両親とかわいい3姉妹が住んでおり、よつばにとっては友達だったりすてきなお姉さんとなる。
そして新居にはとーちゃんの愉快な旧友や後輩が訪ねてきたり、ときにはお隣のかわいい末娘と活発なその友人も交え、みんなでキャンプなどしたりして、平和な毎日がのんびり楽しく過ぎていく。
《 作品について 》
どんなあらすじだよ!って書いてて思ったけどホントにこんなあらすじ。
主人公よつばの過ごす平和な1日を、だいたい1話のペースで進めていくので、15年以上連載している今でも作中ではおそらく数か月しか経っていない。
さらに月刊誌のペース、しかも最近ではどんどん休載も増えたため、かけ離れた現実との時間差は今や精神と時の部屋レベルに達している。
ここが見どころ!
細部まで丁寧に描きこまれた世界で繰り広げられる平和な「日常」そしてかわいいよつばの「素行」
ひたすら平和な日常を垣間見ることに特化しており、おそらく日本の漫画界でも「ほのぼの」や「まったり」を感じさせるトップクラスの作品。
よつばが家を出て隣家でおやつをよばれるだけの一幕で一話が終わるようなこともザラ。この緩やかな時間こそがこの作品のだいご味。
そしてとにかくよつばがかわいい。
好奇心旺盛でなにごとも一生懸命、つねに前向き。
ときどき変な言葉遣いになる「こどもあるある」もまたセンス良くピントをズラしてくれてます。
さらに、とーちゃんの旧友「ジャンボ」はじめ、お隣の「綾瀬(あやせ)」家もほのぼのとした個性に溢れ、読み進めるほどに愛着が沸きます。
寝る前や、ふとしたときに手に取る漫画としては最適な、心をフラットにして少し温めてくれる素敵な作品です。
ヴィンランド・サガ / 幸村誠 (ゆきむらまこと)(2005)
ジャンル | 北欧、歴史、アクション |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 週刊少年マガジン 月刊アフタヌーン |
単行本 | 既刊22巻(2019年現在連載中) 講談社コミックス アフタヌーンKC |
アニメ | 2019年(全24話 ) |
敬愛していた偉大な父親の命をヴァイキングに奪われた少年戦士の物語
【あらすじ】
強く逞しい、そして揺るがない正義の心を持った過去の英雄トールズを父に持つ主人公トルフィン。
しかし、狡猾なヴァイキング「アシェラッド」の手にかかり、無敵の戦士である父の命は、無残にもトルフィンの目の前で奪われてしまう。
そして復讐に燃える幼いトルフィンは、あえてアシェラッド率いる船団に自ら戦士として加えてもらうことを望む。…というところから物語は始まる。
《 作品について 》
2019年現在も連載中の人気作品。
ある程度史実が元になっている模様で、『グリーンランド人のサガ』と『赤毛のエイリークのサガ』(2編を総じて英語圏では「ヴィンランド・サガ」と称す)に記されたソルフィン・カルルセフニ・ソルザルソンの生涯がモデル。
ここが見どころ!
ヴァイキング時代の北欧を舞台に見せる主人公トルフィンの壮絶な人生
この長い物語は大きくいくつかの時期に分かれてます。
まずアシェラッドの元で復讐の鬼となり、ヨーム戦士団の戦士として殺戮を繰り返す「少年期」
そしてその発端となった、あの強く逞しい父トールズの人物像とその絆を描いた「幼少期」
そして再び「少年期」のトルフィンに話は戻ります。
平凡なごく普通の少年の生活を捨て、ヴァイキングの戦士として、がむしゃらに多くの血を流し続けながら、悲しい成長を遂げるトルフィン。
やがてそんなトルフィンも一人の青年へと成長し、いよいよ「青年期」を迎えます。
しかしその時、これまで永きに渡って繰り返した殺戮の末、トルフィンはここまで奪ってきた多くの「命」を背負った重く深い「呪縛」との闘いが始まるのです。
その闘いと数々の出会いや別れといった多くの体験を経て、ようやく父トールズの言った言葉に辿り着く日がやってきます。
その時、トルフィンが出した答えとは…?
2019年10月現在、既刊22巻。
まだまだこの壮大な物語は続くと思われますが、おそらく期待を裏切ることはない読み応えのある深みのある名作です。
きのう何食べた? / よしながふみ(2007)
ジャンル | 料理漫画、ヒューマンドラマ |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | モーニング |
単行本 | 既刊15巻(モーニングKC) |
ドラマ(実写) | 2019年(主演:西島秀俊・内野聖陽) |
ゲイカップルの日常生活をモチーフにした読み切り型の料理レシピ漫画
【あらすじ】
イケメンで几帳面な弁護士「シロさん」こと筧史朗(かけいしろう)と人当たりの良い美容師「ケンジ」こと矢吹賢二(やぶきけんじ)は、同棲中のゲイカップル。
ケンジはそのキャラクターから職場でもカミングアウト済みだが、シロさんもまた本人のキャラクターと深読みしない(あるいは無関心な)職場環境のおかげでノンケとして通している。
そんなタイプの違う2人のほのぼのとした日常譚。
《 作品について 》
毎回必ず料理を作るシーンが盛り込まれている。
ちょっと手の込んだ日常的な料理が多いのだがそこがまたミソで、コツや工夫が非常に大きなポイントとなって「使えるレシピ」に仕上がっており、『マツコの知らない世界』の「マンガ飯の世界」で「レシピ本として使えるおすすめマンガ第1位」にも選ばれた。
ここが見どころ!
カッコかわいいシロさん&ケンジそして2人をとりまくコミカルな愛おしい人たち
一応というか、ゲイとして生きることの厳しさなどにも時おり触れてますが、過剰に同情を誘うようなこともなく、ライトなよしながふみテイストで描かれています。
そんなライトな世界を彩るのが、憎めない「職場」や「ご近所」さん
そして同じ「ゲイ仲間」といったお友達の皆様。
もちろん主人公2人も魅力たっぷりです。
仕事も料理も出来で合理的で立ち回りは器用なのに、人との機微にいつまでも悩んだりするハートは不器用なシロさん。
そして普段は乙女チックでちょっとウジウジした甘ちゃんなのにキメるときはビシっと決める意外に大人で生き方上手なケンジ。
2人を見てるとノンケのボクでも「かわいいなぁ」とクスクスしてしまいます。
ジャンルで言えばグルメ系コミックではあるのだけど、あくまで2人の日常がメインストーリーとなっていて、その日常に節目として出てくる「食事」にもちゃんとフォーカスしている…というくらいの絶妙なバランス。
時には涙腺を緩めるような胸を打つシーンもありつつ軽快なテンポでスラスラッと読めて、さらに読み切りなので「あの混ぜご飯の回だけ読みたいな」と思っても気軽に手をとれる、とても手を伸ばしやすい素敵な作品です。
アイアムアヒーロー / 花沢健吾 (はなざわけんご)(2009)
ジャンル | パニック、青年漫画 |
出版社 | 小学館 |
掲載誌 | 週刊ビッグコミックスピリッツ |
単行本 | 全22巻 |
映画(実写) | 2016年(主演:大泉洋) |
妄想癖の強いしまらないオトコの壮大でちょっと情けない冒険活劇
【あらすじ】
都内で漫画のアシスタントを続ける鈴木英雄(すずきひでお)は、コレといったヒット作も無いまま35歳を迎えた。
妄想が激しく、仕事ではブツブツと続く独り言をイヤミなチーフアシスタントに諫められ、部屋に帰ってからも妄想に怯え妄想に救いを求める日々。
そんな英雄にも彼女がいてるのは何よりの救いだが、こちらも元カレが漫画家でしかも売れっ子という複雑な状況に、これまた悶々とした日々を過ごす。
やがて世界は少しづつ変化しはじめるのだが、コレは果たして現実なのか、それとも妄想の続きなのか…
《 作品について 》
今さらネタバレを気にするのも不要なくらい情報が溢れまくっている近年の話題作。
とはいえ、見事な序章の導入はこの作品にとって重要なイッキに加速するカタパルトのような役割だと思えるので、未読の方にはぜひ何の情報も得ずに読んでもらいたいです。
ここが見どころ!
1話からラストまで失速しないロードムービーのようなストーリー
主人公・英雄のハードな旅が始まってから終着点(?)まで、
色んな人との「出遭い」追い詰められた人間ならではの「エゴ」そして壮絶な「別れ」はどれもドキッとするほど生々しく描かれます。
もちろんその画像は貼りません。
自分のことしか考えない、いざとなったら他人の命すら厭わない人たち。
これを「人間なんてこんなものだ」と当たり前に感じるのか、それとも今抱いている正義を声高に貫けるのか?こればかりは同じ状況になってみないと分からないですよね。
英雄も含め、出会う人たちのうんざりするような人間のエゴや我は、この作品の大きな見せ所。
そして最後は恋や慕情といった純粋な思い、そして人生などを考えされる展開へと繋がります。
その物語を22巻、まったく失速しないどころか加速して見せることができるのは本当に凄い事。
こういうのは、おそらくしっかりとした組み立てとそれを完遂できる意志やセンスが成せる業(わざ)なのでしょうね。
2010年代(平成22年~)おすすめマンガ
ネットの定着でどんどんプロとアマチュアの差が分からなくなってきたのはここからじゃないでしょうか。
どの漫画もレベルが高くそつなく面白いけれど、優れた描き手さんが増えすぎたのか何かしら共通項の多い作品が濫立してるようにも思えます。そんな中で飛びぬけた作品に出遭うと、漫画の底がまだまだ深いことと才能のある人が尽きないことを思い知らされますね。
また週刊少年ジャンプから次々と名作が生まれ「鬼滅の刃」でとどめを刺した印象を受けたのがこの2010年代じゃないでしょうか?
山賊ダイアリー/岡本健太郎(おかもとけんたろう)(2010)
ジャンル | エッセイ、青年漫画 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | イブニング |
単行本 | 全7巻(イブニングKC) |
実際の猟師の生活をのんびり綴ったリアルエッセイ漫画
【あらすじ】
この作品の著者であり主人公・岡本健太郎が猟師になった2009年から実際に過ごした猟師生活を描いたもの。
岡山県の自然を舞台に、狩猟の舞台裏や猟を通じて出遭った人たちとのやりとりが描かれる。
《 作品について 》
作中に「この作品は、作者の実体験を元にしたフィクションです。が、狩猟や食のシーンに関しては、ほぼ事実です」と記載があるため、ノンフィクションでは無いがあくまで厳密に言うとという感じ。
連載終了後、新たなテーマで「 山賊ダイアリーSS 」が始まるも、2019年現在連載はいったん休止している。
ここが見どころ!
淡々と綴られる知られざる猟師のルールと日常
銃の種類や撃ち方をはじめ、罠の仕掛け方そして獲物の解体の仕方など、これまで知ることのなかった情報が猟師仲間たちとのほのぼのしたやり取りを交えつつゆるいテンポで描かれています。
少々拙くもシンプルで分かりやすい絵と丁寧な解説で「ほうほう」「なるほど」と没頭して読めまるのがいいところ。
また「撃った獲物に手が届かない運べない」「食べたらまずい」などなど、おそらく「猟師あるある」なのかなあと思わせるエピソードも豊富です。
そして僕は主人公がとにかく「なんでも食べてみる」というのにとても好感がもてました。
獲物の調理法も、塩焼きや自家製のタレ焼き、そしてローストチキンなどけっこう凝っています。猟師になったのも含めてとても好奇心が強いのでしょうね。
また猟師という珍しいテーマだけあって逸話も面白いです。
熟練の先輩猟師・佐々木さんの豊富な経験、自衛隊出身・赤木さんの高い知識やスキルは目を見張り、そして逆にどうして猟師になったの?な、おぼっちゃま気質のマサムネくんが時おり緊張をほぐしてくれます。
いずれにせよ登場人物全員いい人たちばかりなので読みごたえが柔らかい。
そして刺さらない程度にやんわりとですが、殺生の悲哀も描かれています。ここも重要なポイント。
シンプルで読みやすいエッセイコミック、寝る前やちょっと空いた時間に読むのにとてもおすすめですよ。
暗殺教室/松井優征(まついゆうせい)(2012)
ジャンル | ブラックコメディ、サスペンス、少年漫画 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週間少年ジャンプ |
単行本 | 全21巻(ジャンプ・コミックス) |
アニメ | 2015年(1期:全22話 / 2期:全25話) |
映画(実写) | 2015年(主演:山田涼介) |
ゲーム(3DS) | 2015年:殺せんせー大包囲網!!2015年: |
ゲーム(3DS) | 2016年:アサシン育成計画!! |
ジャンプ的だけど大人も読めるSFブラックコメディ
【あらすじ】
徹底した管理教育を行う 進学校「椚ヶ丘(くぬぎがおか)中学校」、そこの生徒たちに自信と優越感を与えるため問題児ばかりを意図的に集めた「3年E組」にある日、防衛相の人間が「タコの宇宙人のような人語を喋る不思議な生物」を「E組の担任」として連れてきた。
その不思議な生物はマッハ20で移動したり欠損した身体を再生するなど、驚異的な能力と何故か「異常に高い教師のスキル」を持つ。生徒たちに与えられた使命は「担任を1年後の卒業までに暗殺」すること。そして成功すれば国から報酬100億円、失敗すれば卒業時にその生物が地球を爆発するという。
謎の生物はいったい何者?生徒そして地球の運命は?
《 作品について 》
謎だらけの設定でスタートする奇抜なアイデアの作品。
少年ジャンプならではの子ども向けの設定や演出ですが「それはいいとして」と思えるだけの手数とテンポで次へ次へと運んでくれます。
間違いなく「設定の掴みは良いけどすぐ迷走する」タイプの漫画だと思ってただけに、最後まで下がらないテンションと軸のブレないストーリーの進行には驚かされました。
ここが見どころ!
生徒に暗殺されるため教育する「お笑い要素満載」の先生と「暗殺者として」成長していく生徒たちの不思議な関係
とにかく先生と生徒たちのキャラクターと関係性が面白い。
国家機密で与えられた「謎の生物(担任)を暗殺」する極秘任務、そしてそんなことをまったく知る由もなく相変わらずE組を嗜虐の対象にする他クラスからの嫌がらせ…そんなトラブルや事件をすべて「見越したうえ」で、それを嘲笑うかのように教育の一環にしてしまう先生。
その見事な教育は生徒たちの大きな糧となり、成長させていきます。
そう、教えを授けてくれたその先生を殺すために。
またこの作品は、謎の生物のクセにお調子者な先生によるコミカルなパートが非常に面白い。
おそらく作者がとてつもなく登場人物を「イジるのが巧い」のでしょう。
なので、話が進むたびに先生や生徒などの個性が際立ち、それにつれて増えた要素を巧みにイジりながら笑いやストーリーへと繋げます。
「暗殺」「戦闘」というシリアスなパートと「スケベでアホな異生物」というギャグパートのバランス、全21巻というちょうどいい長さ、絵とストーリーのバランス、とにかく全体の均衡がしっかりとれた傑作だと思います。
かくかくしかじか/東村アキコ(ひがしむらあきこ)(2012)
ジャンル | エッセイ、漫画家 |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | Cocohana |
単行本 | 全5巻(マーガレットコミックス) |
恩師と過ごした作者の青春時代をコミカルに描いた切ない物語
【あらすじ】
漫画を読むのが大好きで幼い頃から漫画家になるのが夢だった林明子(はやしあきこ:作者の本名)は、当然のように絵を描くのも大好きだった。
そのまままっすぐ故郷の宮崎で絵を描くのが好きな女子高生へと成長し、あとは美大を卒業して彗星のごとく漫画家デビューするだけという夢を描いていたのだが…
ある日、同じ美大志望の友人・二見(ふたみ)から「美大はそんなに甘くない」と聞かされる。
そこで二見から絵画教室を紹介してもらうのだが、そこは看板も出てなけりゃ宣伝ももちろんしておらず、電話帳にすら載っていない田舎町のちょっと怪しい絵画教室。
今作はそんなちょっと怪しい絵画教室のちょっと変わった恩師との思い出を描いた自伝エッセイ。
《 作品について 》
「海月姫」や「東京タラレバ娘」をはじめ数々のドラマ化やアニメ化された作品で有名な売れっ子漫画家・東村アキコの実体験を元にしたエッセイで、この作品もまた「この漫画がすごい」では1位に選ばれ「メディア芸術祭マンガ部門」でも大賞を受賞。
今作に登場している恩師こと日高先生は、名前こそもじってはいるものの実在の芸術家でその作品と活躍はネットでも閲覧可能。もし今作を読了された方であればきっと興味が沸くと思います。
ここが見どころ!
真面目で一生懸命そしてどこか箍(たが)の外れた先生の魅力
「絵を描く」ことと「生きる」ことが直結したように実直でがむしゃら、竹刀片手にいつも「いいから描けーーッ!」と怒鳴る先生とそれに戸惑う主人公たちの関係が東村アキコらしくドタバタと痛快に描かれています。
とにかくこの日高健三(ひだかけんぞう)先生がとても魅力的。
そんな先生と作者はとりわけ縁が深かったようで、美大合格後にまったく絵を描かなくなる典型的な美大生となった時やマンガ家としての道が開けそうな時など、辛い時も順調にいってる時も、とにかく人生のあらゆる場面で日高先生が力に…いや土足で踏み込んでくるのです。
そして言葉はいつも変わらず「描け」です。
やがて作者は漫画家としての道を本格的に歩き始めることで、少しづつ「元・日高絵画教室の生徒」から遠ざかる日が増え始めます。
そしていよいよ物語が進むにつれ、当時の日高先生に伝えることのできなかった「思い」が作中に呟かれていきます。
物語自体はズッコケ感あふれる東村テイストでコミカルに描かれているのですが、時おり刻まれるこれが実に苦しい。身につまされる思いです。
そしてもう戻ることのないあの頃の何気ない日常がどれほど大切なものか?先生が怒鳴…いや贈った言葉、そして共に過ごした時間がいかに大きな財産になったか…というのもすごくよく伝わってきます。
しかし東村アキコはエッセイが抜群に上手ですね、天才的なセルフプロデュースだと思います。
そしてコマの描き分けや言葉の表現が面白いのも、これまで読み続けた漫画の「面白味」のエッセンスを完全に自分のものにしている印象です。
テンションの上げ方もナチュラルで上手けりゃ、グッと温度を下げるのもすごく上手い。
その結果、とても緩急のついたラストまで没入できるドラマに仕上がってます…これは必読ですよ。
ちひろさん / 安田弘之 ( やすだひろゆき )(2013)
ジャンル | 女性漫画 |
出版社 | 秋田書店 |
掲載誌 | エレガンスイブ |
単行本 | 1~9巻 |
「ショムニ」の作者が描くお弁当屋さんの「ほのぼの」「コミカル」そしてちょっと「センチメンタル」な日常
【あらすじ】
ある日、町のお弁当屋さん「のこのこ弁当」のアルバイト募集になかなか美人な妙齢の女性が応募してきた。
履歴書には古澤綾(ふるさわあや)と明記されているのだが、本人は「ちひろ」と名乗りたいと申し出る。
そう、お弁当屋さんで源氏名を名乗ろうとするこの不思議な女性は元風俗嬢だった。
そんな一風変わった元風俗嬢のちひろさんが町の人たちと繰り広げる、楽しくも心に染みる日常譚。
《 作品について 》
元来、職場で働く痛快な女性を描くのが非常に得意な安田弘之ならではの作品。前作「ちひろ」のその後という設定で、「風俗」から「町のお弁当屋さん」へと舞台はガラッと変わり、ちひろの個性はそのままに新たな職場でのちひろさんの暮らしっぷりがメインの見どころとなっている。
ここが見どころ!
ほのぼと呑気な日常の中で見せるちひろさんの飄々とした立ち回り
掴みどころは無いのだけど、通り切った芯とそれを見せない仮面で周囲の人との触れ合いを楽しむちひろさん。
作中に登場する、ちひろを良く知る人に言わせれば
- 女性の喜びそうなことはほとんど喜ばないし
- ツボも地雷も読めないし
- たまにすごくおっかない眼するし
- こうときめたら超頑固
そんなちひろさんにみんなが魅了されていくのです。
そして絵も素敵。
安田弘之の描くちひろさんはじめ細い線で描かれた人物たちも魅力ですが、風景もまた素敵な見どころ。
ちひろさんがこっちの感情の紐をグーーーーッと引っ張っる手を「パッ」と離したときに見せる、描きこみを削った見事な「引き算」で描かれた景色に残される余韻は漫画界随一だとボクは思います。
そんな儚く美しい情景の中で、ところどころで容赦なく放たれるちひろさんの言葉がグサグサ刺さるのもこの作品の大きな特徴。
日常生活で突如訪れる誰もが感じる不条理や絶望、咄嗟に激しく感情がグラグラと動くのに、でもそれを言葉にできず結局呑み込んでしまう瞬間。
そういう言葉にならない瞬間をサラッと言葉で言い放つちひろさんがカッコ良くて切ない。
ちひろさんの痛快な日常を気軽に読むも良し、人と人が織りなす 胸を締め付けるような悲しさに涙するも良し、未読の方はぜひご一読ください。
前作「ちひろ」とどっちを先に読むべき?
「ちひろ」は風俗嬢時代のちひろさんを描いた作品。
特に「ぷちぶる」の店長とのキツネとタヌキのばかしあいみたいな絡みは個人的にメインコンテンツだと思ってます。
やはりおすすめしたいのは「ちひろ」が先
酔狂なところは変わってないけど環境がまったく違うこともあり全体的なテイストが違うので、先に明るく開放的な「ちひろさん」を読んで少しトーンの下がった「ちひろ」を読むと少し違和感はあるかと思います。
ここは時系列どおりにまず「ちひろ」を読んでから「あのちひろは今…」的に「ちひろさん」を読むほうがしっくりくるのかなー?って思います。
セトウツミ / 此元和津也 ( このもと かづや )(2014)
ジャンル | 青春、青年漫画 |
出版社 | 秋田書店 |
掲載誌 | 別冊少年チャンピオン |
単行本 | 全8巻(少年チャンピオンコミックス) |
映画(実写) | 2016年(主演:池松壮亮・菅田将暉) |
TVドラマ(実写) | 2017年(主演:高杉真宙・葉山奨之) |
川沿いに座る2人の高校生が関西弁で会話する風景だけを描いた漫画
【あらすじ】
高校2年生の瀬戸小吉(せとしょうきち)と内海想(うつみそう)の2人は、放課後のほぼ毎日を川沿いに並んで座り、ウツミが塾へ行くまでの時間にだらだらと言葉を交わすのが通例となっている。
スポーツが得意で直球勝負な人気者タイプのセト、知的で寡黙な少し皮肉屋タイプのウツミ。タイプも違い、果たして本当に仲が良いのかただの馴れ合いか、よく分からないところもあるそんな2人が今日もまたボソボソと言葉を交わす。
《 作品について 》
ちょっと変わった視点のゆるいまったり系の漫画。
笑う要素が多くジャンル的にはギャグ漫画に近いのだけど、ギャグ漫画というよりシットコム(シチュエーションコメディ)といった手合いで、語彙や会話のやりとり、狭い空間で作られる展開など、作者のセンスを感じる作品となっています。
ここが見どころ!
2人の言葉巧みな関西弁による掛け合い
毎回やんわりと曖昧な会話から始まるのですが、やんわりしたままじょじょにボルテージは上がり、つい噴き出しそうな言葉のやり取りへと膨らむパターンが多く、気づけばクスクス笑ってしまいます。
やり取りも、これは関西特有の表現なのでしょうか?
「いちいちうまいこといわんでええねん」の「いちいちうまいこと」の応酬で、さらにこの作品は「このフリの返しはコレ」のセンスが抜群で言葉のチョイスが実にピンポイントを突いているのです。
ちなみにセトとウツミだけでなく、ユニークなゲストがちょこちょこ出てきます。こういうところもシットコムっぽいですね。
あと、関西弁というのが重要。
関西弁の日常会話を聞いた関東圏の人が「漫才みたい」というのをよく聞きますが、まさにそれなのでは?と思います。独特のリズムとリアリティが生まれてますね。
さらに、言葉や言い回しだけでなく、サラっと脱線したりする会話の流れや伏線が巧く作用しており、この地味なやり取りは病みつきになります。
おそらくこのまま色んなシーンで展開したとしてもきっと面白いように思いますが、そこをあえてこの川沿いに限定することで会話と設定の妙が際立つのでしょうね。
たまに読み返しても、相変わらず噴き出すことの多いとても読みやすい作品です。
うちのクラスの女子がヤバい / 衿沢世衣子 ( えりさわせいこ)(2015)
ジャンル | SF、青春、青年漫画 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 月刊少年マガジンエッジ |
単行本 | 全3巻(マガジンエッジコミックス) |
一話読み切り型のフシギで平和な学園奇譚
【あらすじ】
とある高校の1年1組には、思春期の間だけ使い道のないちょっと変わった能力「無用力(むようりょく)」が身につく女子ばかりが集められている。
何の役にも立たないニキビのような思春期の証「無用力」だが、それも日常的な青春のちょっとしした演出に…そんな一幕を描いた読み切り作品。
《 作品について 》
作者の衿沢世衣子は、過去に「烏瞰少女(ちょうかんしょうじょ)」というドラえもんをオマージュとした短編作品で「思春期を過ぎると能力(そのときはタケコプター)が無くなる女子」を描いたことがあり、この「うちのクラスの女子がヤバい」ではその設定をリモデルしてるのではないかと勝手に推測。
とはいえ「烏瞰少女」はしんみりと大人になる切なさを描いてあったのに対し、今作では思春期をエンジョイするほのぼのと少しコミカルな生徒たちが描かれているあたり違いは大きい。
ここが見どころ!
一話ごとに一人づつスポットがあてられる進行とじょじょに深まるクラスの絆
ふしぎなチカラ「無用力」の存在が独特な設定の軸となってます。
しかし先述したように、主人公である1年1組の生徒たちにとってそれはやはりニキビのように日常的なものでさほど大きな意味を持ちません。
むしろ物語の肝は、青春真っ盛りの生徒たちが手を握りあって「無用力が存在する世界」という迷路の中を右往左往しながら互いの関係性を深め合っていく、その過程に思わず応援したくなったり柔らかい元気をもらったりするのです。
思春期というテーマだけあって、スポットがあてられる女子たちがみんなどこか色っぽく、繰り広げられる物語もとても甘酸っぱいです。
そこでここはひとつ、そんな素敵な女子クラスメートたちを簡単に何人かご紹介したいと思います。
まず一人目は、
恋愛願望が強いのに肝心のクラスの男子はみな子供っぽく見え、いいヤツらだなとは思いつつ、なかなか恋愛に発展しない。
素敵な恋愛そしてバイト先のインド料理店のカレーがいきがいな沐念(もくねん)
続いては、男勝りな文系でドライなメガネ女子。
いつもクールに平然と、そしてぶっきらぼうに周囲の友達にいたずらを仕掛け、成功したときだけ明るく笑う。
もちろんそんなことで嫌う友人もいない、デレのないツンで筋金入りのライトS(エス)なレモ。
男兄弟の中に育ち、プロレス(ごっこ)が得意で、スポーツも上等。
人当たり良く差し障りのない性格も人気があり、さらに成績も抜群に優秀なLGBT(セクシャルマイノリティ)のリュウ。
ちなみに、
レモにいたずらされ、リュウに勉強を教えてほしいと言ってるのは、無邪気で好奇心旺盛そして怖いもの好きの蓋葉(ふたば)
などなど。
そんな彼女たちにどんな無用力があるのか…そしてどんな素敵な日常が繰り広げられているのかは、まさに読んでからのお楽しみ。
作品の方向性としては基本「気軽にまったり」…しかし深読みしたい方にも何かしらの余地が残されてるような、そんな味わいのあるおすすめ作品です。
衿沢世衣子については、この「うちのクラスの女子がヤバい」以前の作品もおすすめしたいです。
2005年に発行された短編集「おかえりピアニカ」では、さきほど紹介したドラえもんのオマージュ作品「鳥瞰少女」そしてこのブログでも紹介しましたよしもとよしとも 原作の作品「ファミリー・アフェア」そして黒田硫黄 の影響を受けている(と思われる)ような作品「サッカリン」や「体が育つ」なども読むことが可能。
興味の出た方はぜひ手を伸ばしてみてください。
約束のネバーランド / 出水ぽすか ( でみずぽすか)(2016)
原作・原案 | 白井カイウ(しらいかいう) |
ジャンル | 少年、SF冒険、ダークファンタジー |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
単行本 | 既刊16巻(2019/12月現在:ジャンプ・コミックス) |
アニメ | 1期:2019年(全12話)2期:2020年放送予定 |
IQの高い孤児たちが謎の世界を生き抜くダークファンタジー
【あらすじ】
とある国のとある孤児院に暮らす38人の孤児。
みんな優秀で本当の兄弟のようにとても仲良くいい子、そしてすべての孤児たちが「ママ」と慕う優しく教育熱心なシスターもいる、まさに不自由のない満たされた環境。
しかしこの孤児院にはいくつかの「謎」がある…
「首に刻まれたナンバー」
「危ないから近寄ってはいけない場所」
「孤児院の敷地外の世界について」
など…
孤児たちの中でも特に優秀な3人。
明るく活発そして正義感の強い「エマ」誠実で聡明な「ノーマン」そして博識でいつも現実的な「レイ」たちは、その「謎」に気付き始める…ところから始まる物語。
《 作品について 》
2019年現在のところ連載中だが、すでに幾つかの賞も受賞している人気作。
人気が出てしまうと、ジャンプだけにいつもの引き伸ばしが始まりそうで不安を覚えるが、wikiによると作者は「20巻以内に終わる漫画」を目指してるようなので、今のところそこが読めるモチベーションとなってます。
ここが見どころ!
ブレない設定と説得力のある見事な伏線回収のタイミング
何気なく読み始めたら「え?これジャンプ作品??」と表紙を見直すくらい、いわゆる「ジャンプ路線」の中でも「畳みかける謎と伏線」の回収が秀逸な作品。
とくに前半の詮索と攻防の応酬は目の離せない緊張感が続きます。
目の前に居てる人は味方か敵か?
いずれ出会うどちらとも分からない相手との智略によるマウントのとりあい…
自分のカードをどこまで切って、相手のカードをどこまで切らせるか…?
手に汗握る駆け引きにはドキドキが止まりませんでした。
ここが見どころ!
テンポよく展開する物語のスピードに読者を乗せるテクニックが巧い
次から次へと訪れる窮地は緊迫感に溢れ、ドンやギルダといった個性たっぷりな孤児仲間たちとのクスッと笑える暖かいふれあいには心癒され、随所にサクサクと読ませるテクニックが活かされ軽快なリズムで読み進めることができます。
そしてスピードに乗ってると、ときおりピタッと「…なぜ〇〇したの?」といった物語の核心に迫る謎が突きつけられ、読んでるこちらも「…はっ!そういえば…?」と、今も深い迷宮に立っていることを再び思い知らされるのです。
このあたりの「揺さぶり」が本当~っに巧い。
異世界でありながら整合性のとれた世界観、「HUNTER×HUNTER」やこのブログでも紹介した「暗殺教室」や「クレイモア」といったジャンプ作品が好きな人ならピタッとハマるような気がします。
この世界の謎とは?交わされた約束とは?
そしてエマや孤児たちに待ち受ける未来は果たして幸福か?それとも絶望か?
ドキドキハラハラが止まらない秀逸なダークファンタジー「約束のネバーランド」…これはおすすめですよ!